平凡な街並みが最高の被写体になる!『日常の絶景』を読んで

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書籍『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』(八馬智著)を紹介します!散歩やカメラが好きな人、スナップ写真がうまくなりたい人にぜひ読んでほしいです。

神戸ファインダーをご覧いただきありがとうございます。Aki(@Aki_for_fun)です。 最近読んでおもしろかった本があるのでブログに感想を書くことにしました。当サイトに来てくれる読者の人ならきっと気に入るであろう書籍です。

カメラや写真の本というわけではないのですが、スナップ写真が好きな人には深く刺さる書籍のはずです。散歩が好きな人にも相性が良いと思います。街並みを観察する感覚が研ぎすまされ、日常風景の解像度を高めてくれますよ!

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本を手に取ったきっかけ

『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』八馬智著 学芸出版社

著者の 八馬智 氏を知り、そこから本書『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』に興味をもちました。八馬先生を知ったのは、YouTubeの「ゲームさんぽ」という企画の動画でした。都市景観・土木の専門家として八馬先生が動画に登場して、ゲーム「マインクラフト」の街づくりにアドバイスをしています。ゲームの町開発がどんどん洗練されていく様がおもしろかったです。八馬先生が登場するほかの動画も見たり、先生のツイッターブログなども拝見しました。

見ていて思ったのが「この人写真うまいな…」ということ。写真を見ているとなんとなくわかるのですが、日ごろから風景をしっかり観察して見ていて、それをカメラで記録する経験値が豊富な人だということが伝わってきました。もっと八馬先生の写真を見てみたいな~と思っていたところ、本書の刊行を知りました。しかも本の帯には「映像研には手を出すな!」の作者大童澄瞳氏の推薦のコメントが寄せられています。「映像研には手を出すな!」は個人的に大好きで全クリエイターが見るべき名作だと思うくらいなので、その作者のお墨付きで自然と期待が高まりました。

日常の絶景の帯 「映像研には手を出すな!」の大童澄瞳氏
著者プロフィール

八馬 智(Satoshi Hachima)
1969年千葉県生まれ。千葉工業大学創造工学部デザイン科学科教授。専門は景観デザインや産業観光など。千葉大学にて工業デザインを学ぶ過程で土木構造物の魅力に目覚め、札幌の建設コンサルタントに入社。設計業務を通じてデお穆業界にデザインの価値を埋め込もうと奮闘したものの、2004年に千葉大学yに戻りデザインの教育研究に方向転換した。その後、社会や地域の日常を科目に支えているインフラストラクチャーへの愛をいっそうこじらせた。2012年に千葉工業大学に移り、現在は本職の傍らで都市鑑賞者として活動しながら、さまざまな形で土木のプロモーションを行っている。著書に『ヨーロッパのドボクを見に行こう』(自由国民社、2015)がある。
※『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』の著者プロフィールより引用

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『日常の絶景』の内容と面白かったところ

書籍の概要

本書は、珍しい景色やわかりやすく美しい景色だけが「絶景」なのではなく、毎日目にするような何気ない景観のなかにも「日常の絶景」があると説いています。大切なのは自分なりの視点や目的意識を持って風景を観察すること。そして可能ならば観察した具体的な景色の背景に抽象的な繋がりを見出すことです。著者は自身が日ごろからカメラで記録して集めてきた一見平凡かもしれない風景の写真を提示しつつ、その風景写真の背景にある設定について解説します。

街中で見かける室外機やごみ箱、パイプ・ダクトなどの配管に、避難階段や駐車場…ふつうなら見過ごしてしまっていたかもしれない日常の絶景たち。似たような風景は自分も目にしていたはずだけれど、写真を見たり著者の解説を読むとたしかにとても特別な風景に見えてくるから不思議です。

筆者オリジナルの絶景写真が豊富に提示されるので、読者もこれを参考に自分なりの絶景を日常の中で発見できるかもしれません。「なんだか楽しそう。自分も日常の絶景を探してみよう」。読者にそう思わせるのがまさに本書の狙いです。

特におもしろく読んだポイント

まずシンプルに写真を眺めるのが楽しいです。特に室外機、パイプ・ダクトは写真としておもしろい。形や配置が絶妙で写真芸術としてきちんと成立しています。身近な被写体なので自分も探してみたいと思わせてくれました。

高低差や水平という枠組みで風景を記録する試みも新鮮でおもしろいです。本書のなかには土木やデザインの専門家だからこその視点も数多く、新鮮で勉強になるところが多かったです。「なるほど、そういう視点もあるのか」、「見たことあるけどこれってそういう意味のあるものだったんだ」、そんな発見・気づきが多くて楽しく読めました。

文章表現も素敵です。「囚われのドロイド」、「クルマのお宿」、「ビルバオの枯山水」。こういったちょっと文学的な言葉を目にすると興味をもって読み進めたくなります。ただのごみ箱の写真も「囚われのドロイド」として擬人化されたキャラクターとして見ると、まるでそこにSFの世界が広がっているように感じます。

また本書を読んでいると、平凡な日常やがっかりしてしまうような状況を楽しもうとする著者のポジティブな姿勢が読み取れます。例えばコラムとして挿入されている「ラッピング名所」の考え方が素敵です。せっかくの旅行で楽しみにしていた観光スポットが補修工事のために見られなくなっていたという経験はないでしょうか。名所を見られるのを楽しみにしていたのに残念…となるのがふつうなのですが、考え方をすこし変えてみると「今しか見られない貴重な姿」とも言えます。

むしろ、その都市の歴史が適切にアーカイブされる現場に立ち会えたことは、とても幸運なのだ。そう思い込んで、ラッピングされた姿を積極的に撮っておこう。それはみんなが知っているガイドブックの写真とは全く異なる眺めであり、自分の旅だからこそ得られた貴重な記録である。

※『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』P92より引用

本書の根底にあるコンセプトのひとつが「面白がろうとする姿勢」なのだと思います。ちょっとした意識の工夫で「日常」は「非日常」に、「つまらない」が「面白い」に変化する。日常をわくわくドキドキと楽しむお手本が一冊の本にたくさん詰まっています。

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熊本旅行で訪れたときの一枚。熊本城は震災で損壊してしまい筆者が訪れたときは補修工事中でした。壊れてしまったことは残念だけれど工事中のお城の姿もそれはそれでかっこいいと思ったのを覚えています。
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本を読んで自分の活動を振り返る

自分もどうやら「都市鑑賞者」らしい

『日常の絶景』はわたしにとって新しい発見も多い本でしたが、個人的には共感の嵐でした。「自分が普段何気なくスナップしているものとつながる!」、「わたしって『都市鑑賞者』だったんだ!」と気づかされました。

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『日常の絶景』で数多く登場する配管・パイプはわたしにとってもお気に入りの被写体のひとつ。
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工事現場などで見かけるポールを支える道具。名前は知らないけれどデザインが豊富で見かけるとつい写真を撮って記録しています。

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チョッパー
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着物を着た女性
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京都の街並みに合ったデザインだと思って印象に残っています
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工事中の風景もよく撮ります。こちらは工事中の神戸ポートタワー。八馬先生の言うところのラッピング名所です。

自分のやっていることに名前がついて定義化される驚きと喜び。より明確に世界を探求する視座を得た感覚です。

スナップ写真は正直言うと地味なものが多いです。写真やアートを知らないと、あまり良さがわからないひとも多いかもしれません。ですが、単独で見てもなかなか主役や主題になりえないものも統一のテーマのもとに集めて編集すれば魅力的なコンテンツ・作品になりうる。そんな発見も本書から得ることができました。

具体と抽象を行き来する

本書の冒頭や締めくくりを読むと、学者先生らしい表現があってここが個人的にはとてもすっと心に染みました。

見方をわずかに変えると、それまで見えなかった姿が次第に浮かび上がる。そのためには、目の前の具体的な対象をさまざまな角度や距離から徹底的に眺め、それが成立している理由を考えながら、ひとたび抽象的に捉え直す。

「はじめに」より引用

世界の設定を観察する。そして、仮説を立ててその先の世界を想像し、あわよくば創造する。(中略)具体と抽象をシームレスにつなぎ、双方を意識的に行き来するメタ視点を獲得するには、「日常の絶景」の探索が良いトレーニングになるだろう。

「おわりに」より引用

八馬先生は「具体と抽象の行き来」という言葉を使っておられるのですが、わたしも同じようなことを日ごろから意識していて「経験と理論の往復」を行うように心がけています。個別具体的な事象の裏にある理論に思いをはせたり、抽象的な理論から個別具体的な事例を考えたり。これは科学のアプローチだと思いますし、多くのことに応用がきくものです。このトレーニングが仕事においても趣味においても自分を育ててくれると思っています。今後はスナップ写真を撮るときにもよりこの感覚を明確に意識したいと思いました。

今回紹介した書籍:『日常の絶景:知ってる街の、知らない見方』

関連書籍:『ヨーロッパのドボクを見に行こう』八馬智著

わたしが八馬先生を知るきっかけとなった「ゲームさんぽ」も書籍が出版されています。

わたしが持っているのはクラウドファンディングで出資して手に入れた特装版ですが、現在はソフトカバーの単行本が一般販売されています。

個人的には都市鑑賞者としての観察力向上のために『街角図鑑』を読んでみようと思っています。

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