自分が使っているパソコンディスプレイの見え方が気になったことはありませんか。特に写真や動画の編集ではモニターの色が信頼できないとレタッチやカラーグレーディングがうまくいきません。その問題を解決するキャリブレーションツール「X-Rite i1 Display Pro」をレビューします。
神戸ファインダーをご覧いただきありがとうございます。Aki(@Aki_for_fun)です。写真編集のためにX-rite社の「i1 Display Pro」を買いました。最初は買うのをためらったのですが、最近想像以上に活躍してくれているのでレビューすることにしました。
ディスプレイによって見え方が全然違う
わたしが初めてディスプレイの見え方の違いが気になったきっかけは自分の写真をパソコンで見ていたときでした。自分で撮影・編集した写真をブログやSNSにアップしていたのですが、後から同じ写真を見たときに違和感があったのです。
どうも自分が仕上げた写真とは違う見た目になっていました。慎重に丁寧に編集したはずなのにおかしいな〜と思いました。最初は間違って編集途中の写真をアップしてしまったのかとも思ったのですが、どうやら原因はディスプレイの映り方の違いにあることに気づきました。
つまりノートパソコンで写真を編集したあとに、別のデスクトップパソコンのディスプレイで同じ写真を見たために自分のイメージと違った印象になってしまっていたのです。せっかく編集した写真でもそれを鑑賞する環境がちがうと異なった見た目になってしまいます。
もしスマホやタブレット、パソコンなど複数の端末を持っている人はそれぞれで同じ写真を開いて見比べてみてください。きっとそれぞれ微妙に見た目が違うはずです。普段個別で見ているぶんには気にならないかもしれませんが、並べてみると意外と大きな違いがあったりします。
具体例を用意したのでご覧ください。2種類のノートパソコンで同じ写真を開いています。
写真左がマウスコンピューター社のDAIV-NG4500、写真右が同社のDAIV-NG5500
写真の色味も違えば色の濃さも違いますよね。比べると右側のほうが青っぽくて色が濃いです。
もうひとつ例を用意しました。こちらもふたつの異なるパソコンですが表示している写真はまったく同じです。
写真左がマウスコンピューター社のDAIV-NG5500、写真右が同社のDAIV-NG5720
こちらも色味が違ったり、明るさも違っているように見えます。
この具体例に用意したのはマウスコンピューターがクリエイター向けに開発したDAIVというシリーズのノートパソコンです。なのでディスプレイの品質そのものはそんなに悪くありません。しかし、明らかにそれぞれの見た目は異なっています。
こうやって比べてみてわかるのは映りの違いだけで、いったいどれが正しい色なのかわかりません。いったいなにを基準にしたらよいのでしょうか。こんなときに役立つのがキャリブレーションツールです。
キャリブレーションツールとは
キャリブレーションツール(ディスプレイキャリブレーションツール)とは、ディスプレイの「ソフトウェアキャリブレーション」を可能にする道具です。
もうすこしわかりやすく言うとディスプレイの見た目を整えるためのセンサーとソフトウェアのことです。センサーをディスプレイに取り付けてその映りを測定しながら、専用のソフトウェアによって自動でディスプレイの映りを整えてくれます。
なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、道具さえ買ってしまえば簡単にできます。というか簡単にできるところがキャリブレーションツールの良いところです。
キャリブレーションツールは基本的にどんなパソコンでも使えます。専門的なカラーマネジメントモニターでなくても、キャリブレーションツールがあれが「ソフトウェアキャリブレーション」というものを行ってディスプレイの映りを調整できます。
もしカラーマネジメントモニターを持っていれば、このキャリブレーションツールを一緒に使うことでより精度の高い「ハードウェアキャリブレーション」が行えます。つまりディスプレイの色味など映り方にこだわろうとすると、どうせキャリブレーションツールが必要になります。高級なモニターを買うよりも先に手頃なキャリブレーションツールを買ってしまうのもありです。
X-Rite i1Display Pro
わたしが使っているキャリブレーションツールは、X-rite(エックスライト)社の「i1Display Pro」です。
i1Display Proを選んだ理由
数あるキャリブレーションツールのなかでわたしがi1Display Proを選んだ理由は定番だから。いろんな写真家のかたがi1Display Proを使っています。また自分が利用しているLGやBenQのモニターを含め、様々なメーカーのカラーマネジメントモニター(およびキャリブレーションソフト)にi1Display Proは対応しています。
後から買い直すのも嫌だったので、ネットでも情報が豊富にある人気のi1Display Proが良さそうだと考えました。
わたしはまだ試したことがないのですがスマホのキャリブレーションにも使えるらしいです。
i1Display Proの使い方
i1Display Proを買うとパッケージには次の写真のようなものが付属します。
ソフトウェアのDVDとクイックスターターガイド、そしてi1Display Pro本体です。
これがパソコンにとりつけるセンサーです。ケーブルの先はよくあるUSBになっています。
キャリブレーションしたいパソコンにこのi1Display Proを繋ぎます。またソフトウェア「i1プロファイラー」もインストールしておきましょう。光学ドライブがなくてDVDを挿入できなくてもウェブサイトからダウンロードできます。製品ページのサポートの項目に該当ソフトウェアがあります。
参考:X-Rite: i1Display Pro(アイワン・ディスプレイプロ)
「X-Rite Device Services」もインストールしておきましょう。「xritedevice.dllが見つからない」というエラーメッセージが出るときはこれを入れることで解決するはず。
参考:i1Profiler Product Support
基本的にはソフトウェアの指示に従えばキャリブレーションはできます。ユーザーモードで「詳細」を選択、「ディスプレイ装置の選択」で「i1Display」を選択しましょう。それから「プロファイルの作成」でキャリブレーションの設定と作業を進めることになります。
キャリブレーションの設定については書籍や詳しい人のウェブサイトで勉強してみることをおすすめします。だいたい似たようなことが書いてあります。でも絶対にこういう設定とも書いてないのでそこはご自身のニーズ・環境にあわせて柔軟に選びつつ、研究してもらえると良いと思います。
参考までに印刷することを目的とした場合の設定と、WEBへの出力を目的とした場合の設定の例を載せておきます。やはりひとつの目安で絶対の正解ではないのでその点ご了承ください。たぶん初期設定だとWEB用にちょうど良い感じに決まっていると思います。
印刷用の設定
- 白色点:CIEイルミナントD50 / 5000K
- ガンマ:2.2
- 輝度:80cd/m2
WEB用の設定
- 白色点:CIEイルミナントD65 / 6500K
- ガンマ:2.2
- 輝度:120cd/m2
参考書籍:『写真の色補正・加工に強くなる ~Photoshopレタッチ&カラーマネージメント101の知識と技』
参考ウェブサイト:i1 Display Proの使い方 詳細モードによるモニターキャリブレーションの方法 | カラーマネジメント実践ブログ 〜フォトレタッチの現場から〜
設定を進めていくと、いよいよセンサーをとりつけてカラープロファイルの作成になります。やはりソフトの指示にしたがってセンサーをディスプレイ画面中央にくるように設置します。きちんと画面にそうように、隙間ができないように気をつけましょう。
ちなみにコードについている重りは位置を変えることができます。使いやすい場所にずらして使いましょう。
ディスプレイが自動ディスプレイコントロール(ADC)に対応していればあとは放っておけば勝手に調整してくれます。非対応なら途中で自分で画面の明るさ(輝度)を変えたり、色を調整することになります。わからなければ失敗してもあとでやり直せるので適当に色々試してみましょう。
画面がいろんな明るさや色になりながらキャリブレーションが進むので数分放置します。終わったらソフトの指示に従ってセンサーを取り外します。
最後に「プロファイルを作成して保存」をクリックするとキャリブレーション完了です。ここまでやらないとせっかく測定して調整した内容がディスプレイ(パソコン)に反映されないのでご注意ください。
キャリブレーションした結果
キャリブレーションする前とキャリブレーションした結果を見比べてみましょう。
キャリブレーション前のモニター比較
キャリブレーション後のモニター比較
※モニターをカメラで撮っておりそれぞれの撮影環境が微妙に異なっているので厳密な比較ではありませんがその点ご了承ください。
さてこの結果を見比べてどう思ったでしょうか。正直このふたつを見ただけだと「キャリブレーションしても映りが一緒にならない」という印象をもつかもしれません。実際キャリブレーション後のモニターでも色の濃さが全然ちがいます。
しかし、キャリブレーションの恩恵もしっかり現れています。特に色温度がそろって見やすくなりました。キャリブレーション前だとどちらもすこし青っぽい印象です。特に右側のモニターがずいぶんと青いです。キャリブレーションによってこの色味の問題が解決されています。
もうひとつのモニターを比較してみましょう。
キャリブレーション前のモニター比較
キャリブレーション後のモニター比較
やはりこちらも完璧に同じとは言えないものの、見栄えはかなり近づきました。キャリブレーション前は左側のほうがだいぶ青っぽかったですが、その差がおおきく軽減されました。右側はもともとがすこし暗めでしたがキャリブレーション後は同じくらいの明るさです。
キャリブレーションツールでできることと、できないこと
キャリブレーションツールの限界
キャリブレーターさえあればあらゆるモニターの映りが一緒になるわけではありません。ソフトウェアで対処できることには限界があって、モニターそのものの性能を変えることはできないからです。例えば、ディスプレイによって出力できる色の幅(色域)に違いがあります。ディスプレイによって出せる色と出せない色があるのです。
先ほど例に出したマウスコンピューターDAIVのノートパソコンの色域もそれぞれ違います。NG4500は色域非公表(つまりアピールできるほど良い数値ではない)、NG5500はAdobeRGB比98%、NG5720はsRGB比95%です。
なので、いかにキャリブレーションツールをつかって調整したところで種類の違うディスプレイの映りが一緒になることはありません。当たり前といえば当たり前かもしれませんね。キャリブレーションツールは魔法の道具ではないです。
しかし、完璧ではないからといってキャリブレーションツールが無意味というわけでもありません。いくつかのメリットがあります。
色の基準ができる
第一のメリットは、基準となる色の表示ができあがるということです。
例えば写真を編集するとして、キャリブレーションなしでは今使っているディスプレイの見た目を頼りにするしかありません。写真を明るくしても、色を変えても、基準となるのはたまたま今自分が見ているディスプレイです。このままだと同じ写真を他のディスプレイで見たり、写真を印刷したりすると、全然違う色になっています。そして調整しようにも何を目安に合わせれば良いかわかりません。
キャリブレーションツールをつかえば、機械によってディスプレイの実際の映りを測定することができます。そして色や明るさに関する一定の目標数値を設定して調整を行うことができます。色温度はWEBならこの程度というのが決まっていますし、印刷する場合も写真を鑑賞する照明の色温度があるのでそれに合わせれば良いです。基準ができあがるわけです。
WEBで出力する場合、さすがに一般ユーザーは多種多様な閲覧環境なのでそこに合わせることはできません。しかし、少なくとも写真や動画のプロなど、その道の専門家は同じような設定のキャリブレーションをしてモニターを使っているので見た目がだいたいそろいます。カラーマネジメントに明るい人たちと共通の基準を持っているというだけでも、なにも基準がないときと比べてずっと自信をもって写真・動画の編集に取り組めるはずです。
映りを維持できる
第二のメリットは、ディスプレイのメンテナンスができるということです。
ディスプレイの映りは一定ではありません。電源をつけてから映りが安定するまでに時間がかかります。そして数週間、何ヶ月、何年と使っているうちにディスプレイの表示は変化していきます。
キャリブレーションツールがあれば、経年変化したディスプレイでももう一度キャリブレーションすることで映りを調整できます。ディスプレイの映りを維持するという意味でもキャリブレーションツールは役立ちます。
こだわるならカラーマネジメントモニターが大事
キャリブレーションツールを使ってもモニターそのものの性能は変わらないと説明しました。となると本当に写真や動画の編集環境にこだわるなら性能の良いモニターを導入すべきです。一般的に「カラーマネジメントモニター」と呼ばれるものであれば高性能で良い映りをします。そしてハードウェアキャリブレーションによってより性格に色表示を整えることができます。良いディスプレイを使うと写真や動画の編集が楽しく快適になるのでおすすめです。
最後にわたしの持っているカラーマネジメントモニターの「LG 27UK850-W」と「BenQ PV270」、さらにうえで例として出した「マウスコンピューター DAIV-NG5500」のディスプレイを並べてみました(下の写真)。キャリブレーションして映りを比べるとかなり均一的な映りです。
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